「営業歴10年のベテランをアサインしたのに、POCが進まない」──新規事業の現場で、この状況は珍しくない。

営業経験の長さとPOCでの成果は、必ずしも比例しない。本記事では、なぜ豊富な営業経験がPOCで機能しないことがあるのか、その構造的な理由と、POC人材を選ぶ際に本当に見るべきポイントを整理する。

既存営業のスキルセットとPOC営業のスキルセット

営業経験10年のベテランが持つスキルは、多くの場合、既存事業の営業で磨かれたものだ。

既存事業の営業で求められるのは、確立されたプロダクトを効率的に売る力だ。製品知識、プレゼンテーション力、クロージング技術、顧客との関係構築。これらは市場が確立し、顧客ニーズが明確な環境で威力を発揮する。

しかしPOCの営業では、これらのスキルの多くが使えない。場合によっては、逆効果にすらなる。

製品知識 → 説明過多になる

既存営業のベテランは、プロダクトの特長を細部まで説明する訓練を受けている。しかしPOCのプロダクトはまだ完成していないことが多く、説明すべき「完成品」がない。

さらに問題なのは、説明に時間を使うほど、顧客から情報を引き出す時間が減ることだ。POCの商談で本当に必要なのは「話す」ことではなく「聞く」ことだ。

クロージング力 → 検証を歪める

クロージングに長けた営業は、相手を「はい」に導く技術を持っている。しかしPOCの検証では、相手の本音が必要だ。クロージング技術で引き出した「はい」は、意見であって行動事実ではない

むしろ「いいえ」と言わせることに価値がある場合もある。「この方向の解決策は必要ない」という明確な否定は、ピボットの判断材料になる。相手を肯定に導く技術は、検証の精度を下げる方向に作用する。

関係構築力 → 忖度を生む

営業経験者は顧客との関係構築を重視する。しかしPOCのヒアリングでは、関係が良好であるほど、相手は本音を言いにくくなる。「この人を応援したい」という気持ちが「いいですね」を生み、正確な検証を妨げる。

既存営業部門がPOCで機能しないのは、こうした既存スキルとPOCの相性の悪さが根底にある。

経験の「年数」ではなく「種類」を見る

POC人材を選ぶ際に見るべきは、営業経験の年数ではなく、経験の種類だ。

10年間、同じプロダクトを同じ市場で売ってきた人と、3年間で複数の新規プロダクトの立ち上げに関わった人がいた場合、後者の方がPOCに向いている可能性が高い。

具体的に確認すべきは以下の3点だ。

一つ目は、型がない環境で仕事をした経験があるか。マニュアルやトークスクリプトが整っていない状態で、自分で営業の進め方を設計した経験があるかどうか。

二つ目は、売れなかった経験をどう扱ったか。失注を「次へ切り替え」で処理したか、原因を分析してアプローチを変えたか。後者の経験がある人材は、POCのフィードバックループに適性がある。

三つ目は、型を作った経験があるか。既存の型にのって成果を出したのか、自ら型を設計して周囲の成果も上げたのか。この違いがPOCでの成果を分ける。

経験10年が活きるケースもある

誤解のないように補足すると、営業経験10年が常に無駄ということではない。

10年の中で、新規市場の開拓、新プロダクトのローンチ、ゼロからの顧客開拓を経験している人材であれば、POCでも力を発揮する。業界知識や人脈が検証の速度を上げることもある。

問題なのは「営業経験が長い=営業力が高い=POCでも成果が出る」という安易な等式だ。経験の年数ではなく、その中身を見極めることが、POC人材のアサインにおける最も重要な判断だ。

まとめ

  • 既存営業で磨かれたスキルはPOCで逆効果になることがある──説明力、クロージング力、関係構築力がそれぞれ検証を妨げる方向に作用する
  • 経験の「年数」ではなく「種類」を見る──型のない環境で動いた経験、失注を分析した経験、型を作った経験が重要
  • 営業歴が長い=POCに向いている、ではない──経験の中身を見極めてアサインする

新規事業の営業に課題を感じている方は、こちらからお気軽にご相談ください

新規事業の営業に課題を感じている方へ

お問い合わせはこちら