コンサルティングティング会社に依頼して、戦略を作った。市場分析、ターゲット設計、競合ポジショニング、Go-To-Market戦略。資料は精緻で、経営会議も通った。あとは売るだけだった。

しかし、いざ営業を始めてみると、誰も買わない。

この状況に直面したとき、多くの新規事業担当者は「営業のやり方が悪いのか」「プロダクトが悪いのか」と悩む。しかし本当の問題は、戦略そのものが「実行して検証する」前提で設計されていなかったことにある。

社内を通すための戦略と、売るための戦略は違う

コンサルが納品する戦略資料は、一つの目的に最適化されている。社内の意思決定者を説得し、承認を得ることだ。

市場規模の数字、成長率の予測、競合との差別化ポイント。これらはすべて「この事業には合理性がある」ことを証明するために組み立てられている。そして実際に、その目的は果たしている。経営会議を通過し、予算が承認される。

しかし、社内を説得するための論理と、顧客がお金を払う理由は、同じではない。

市場規模が大きいことは、自社のプロダクトが売れることの証明にはならない。ターゲット企業を定義したことは、その企業が課題を認識していることの証明にはならない。競合との差別化軸を設計したことは、顧客がその差に価値を感じることの証明にはならない。

戦略資料の中にあるのは、論理的に整合した「仮説」だ。仮説は、顧客の前に立って初めて検証できる。

「お金を払うか」を確かめていない

戦略の中で最も検証が難しく、かつ最も重要なのは「顧客は本当にお金を払うか」という問いだ。

コンサルが行う市場調査やインタビューは、この問いに間接的にしか答えていない。「このような課題を持つ企業は多い」「解決策へのニーズは高い」──これらは市場の傾向を示しているが、個別の顧客が財布を開くかどうかは別の話だ。

特に問題なのは、インタビュー段階での質問設計だ。「このようなサービスがあれば利用したいですか?」という質問は、ほぼ確実に「はい」が返ってくる。相手は目の前の提案者に対して好意的に振る舞う。しかしこの「はい」は意見であり、購買の約束ではない。

検証に耐えるのは、顧客がすでに取った行動の事実だけだ。「この課題を解決するために、過去にいくら使ったか」「現在どのような手段で対処しているか」「その対処にどれだけの工数をかけているか」。こうした事実が確認できて初めて、「お金を払う意思がある」と判断できる。

戦略フェーズでこの検証が行われていないと、営業を始めてから「あれ、思ったより反応が薄い」という事態に直面する。

実行を見据えた戦略になっていない

もう一つの問題は、戦略が「一枚の完成図」として設計されていることだ。

コンサルの戦略資料は、最終的なゴールに向かって一直線に進む前提で書かれている。ターゲットはこう、ポジショニングはこう、価格はこう、チャネルはこう。すべてが一つのストーリーとして整合している。

しかし新規事業の現実は、一直線には進まない。最初の仮説が正しいことは稀で、営業活動を通じて修正を繰り返しながら前進する。戦略に必要なのは「正しい答え」ではなく「何をどの順番で検証し、結果に応じてどう判断するか」という検証の設計だ。

具体的には、以下のような設計が必要になる。

まず「課題は実在するか」だけを確かめる。顧客が日常的にその問題に直面し、対処のためにコストをかけている事実が確認できるかどうか。これが確認できなければ、解決策の話に進んでも意味がない。

課題の実在が確認できたら、次に「この解決策は受け入れられるか」を確かめる。コンセプトの段階でよい。顧客の反応を、意見ではなく行動事実で測定する。

そして「対価を払う意思があるか」を確かめる。ここで初めて価格の話になる。

この段階的な検証プロセスが戦略に組み込まれていれば、営業現場で仮説が崩れても、どこで崩れたかが特定でき、次のアクションが明確になる。

「きれいな戦略」の落とし穴

誤解を避けるために付け加えると、コンサルが作る戦略自体に価値がないわけではない。市場の構造を整理し、仮説の精度を上げ、社内の合意形成を進めるという点で、戦略は重要な役割を果たしている。

問題は、戦略を「完成品」として扱ってしまうことだ。

戦略は仮説の集合体であり、検証を経て初めて使える知見に変わる。営業活動はその検証プロセスそのものであり、売れた・売れなかったという結果だけでなく、なぜそうなったかを構造化して戦略に戻す仕組みが必要だ。

きれいな戦略がきれいなまま残っている状態は、検証が進んでいないことの証拠でもある。戦略は現場で泥にまみれて初めて機能する。

まとめ

  • 社内を通すための戦略と、売るための戦略は違う──経営会議を通過しても、顧客がお金を払う保証にはならない
  • 「お金を払うか」は意見ではなく行動事実で確かめる──「使いたい」という回答は検証にならない
  • 戦略に検証プロセスを組み込む──何をどの順番で確かめ、結果に応じてどう判断するかを事前に設計する

新規事業の営業に課題を感じている方へ

お問い合わせはこちら